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米中対立で中国、内陸経済圏を打ち出す 貴州省に航空・デジタル経済を集中投資 経済安全保障強化のための新成長エンジン構築

中国が米国との貿易戦争に備え、内陸の山岳地域である貴州省を「戦略的後方基地」として育成している。かつて最も貧しい地域の一つだった貴州省が、中国経済転換の最前線として浮上している様相だ。中国政府は貴州省をはじめとする中西部内陸省を経済的に連携させて内需市場を拡大し、外部ショックに強い産業構造を構築することを目指している。
中西部10省を経済的に統合し内需を強化
9日付の香港サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)によると、中国当局は来年3月に公式発表予定の中長期経済成長ロードマップ「第15次五カ年計画(2026~2030年)」で、貴州省を含む中西部10省を一つの経済圏に統合する案を検討中である。SCMPは「米中貿易戦争の中で中国は長期戦への備えに全力を注いでいる」とし、「第15次五カ年計画では中国の経済・産業環境を再編する内容が盛り込まれる見通しだ」と報じた。
これに先立ち、北京のシンクタンク「盤古研究所(Pangoal Institution)」は今年5月に発表した研究報告書で、貴州省など中西部10省を経済的に統合して内需市場を強化し、中国が外部リスクに対応するという青写真を提示した。中国はソ連との紛争期である1960年代~1970年代に防衛産業工場を含む主要産業施設を内陸後方地域へ移転する「第3戦線建設」プロジェクト戦略を採用したが、1978年に鄧小平の主導により改革開放を本格化させ、広東・江蘇・浙江・上海など沿岸地域中心の経済開発戦略へ転換した。
これに関連して盤古研究所は「今こそ新たな変化を模索すべき時」とし、「第15次五カ年計画では内陸後方地域の『第3戦線建設』戦略に似た戦略を採用し、国有企業はもちろん中国国内企業にも内陸への投資集中を促すことになるだろう」と指摘した。続けて「このような地域経済配置の再分配は、外部の不確実性を打ち消し、新たな成長エンジンを育成する上で有効だ」と述べた。
貧困地域から先端産業ハブへ
貴州省は2023年12月、中国当局の政策決定会議で「後方基地戦略」の対象として紹介され、シュ・リン貴州省党委書記は5月28日の第15次五カ年計画準備会議で「国家戦略に合わせて貴州省の比較優位を十分に活用する」と強調した。中国国内総生産(GDP)の20%を占める広東-香港-マカオと四川-重慶ベルトの間に位置する貴州省は、地理的に内陸と沿岸をつなぐだけでなく、海外投資の誘致がしやすく、東南アジアとつながりやすい環境を備えた地域である。
これまで貴州省は険しい山岳地形のため投資誘致に苦戦していたが、過去20年間で数十本の高速道路などが建設され、交通網が大きく改善されたとの評価を受けている。貴州省にはC919旅客機を製造する中国商用航空機公司(COMAC)があり、ビッグデータ、データストレージおよびコンピューティング産業などが顕著に発展している。ファーウェイやテンセントなどのテック大手企業が貴州で事業を開始し、アップル、クアルコム、インテル、HP、オラクルなど米国のビッグテック企業も貴州にビッグデータ施設を建設した。デジタルサービスは現在、貴州省のGDPの半分を占めている。

資源・地形・気候の「三拍子」が揃った天恵の環境
政府と企業が貴州省に注目する背景には、データセンター建設に適した気候条件がある。標高が高く涼しい気候の貴州省は、インターネットデータセンター(IDC)の発熱を自然に抑えることができる天恵の地である。実際、貴州は山が多く気候が涼しいため、データセンター建設に最適な拠点として評価されている。台湾の鴻海(ホンハイ/Foxconn)は2つの山の間にウィンドトンネル形式でデータセンターを建設し、自然風による冷却システムを構築している。アリババ創業者のジャック・マーが「もし30年前に広東省や浙江省で投資チャンスを逃したなら、今は貴州へ行け」と語ったのもこのような理由からだ。
このように貴州がビッグデータバレーへと変貌を遂げたのは、「自然の決定」と言っても過言ではない。年間平均気温23度の低く安定した気温と、地震や洪水といった自然災害が少ない気候は、自然冷却と安定的なデータ保管を可能にしている。石炭などの化石燃料に加え、太陽光や風力といった新エネルギーを含め電力資源が豊富で、電気料金が安いというのも強みである。貴州の電気料金は1キロワット時(KWh)あたりおよそ0.06ドルで、全国平均(約0.08ドル)と比べて約20%安い。
ルオ・ユー貴州省外事弁公室副主任は「この地特有のカルスト地形(全体面積の73.8%を占める)と涼しく自然災害が少ない安定した気候のおかげで、ビッグデータバレーへと急速に成長できた」と説明した。続けて「バレーに入居する企業には電気代、水道代などの減免特典を与えており、サーバー設備が多い企業には大きな利点となっている」と紹介した。