希土類の供給停止で世界的な自動車生産停止の懸念 中国、EU企業に対する輸出許可を迅速化 米国を超えて、世界市場に広がる「希土類ショック」

中国が欧州企業に対して希土類輸出の許可を迅速に処理する方針を示した。今回の措置は、中国の希土類輸出統制に対する欧州連合(EU)側の供給網不安および生産支障に関する懸念に応じた対応とみられる。
「グリーンチャネル」で手続き簡素化へ
8日付の英フィナンシャル・タイムズ(FT)によれば、中国商務省は「条件を満たす企業に対しては“グリーンチャネル”を設け、審査と許可手続きを迅速に処理する」と発表した。商務省の報道官である何勇謙氏は、「希土類関連品目は軍民両用の性格を持つため、輸出を管理するのは国際的に通用する慣行」と説明した。
今回の発表は、3日にパリで行われた王文濤・中国商務部長とマロシュ・シェフチョビチEU通商・経済安全保障担当委員との会談を受けたものである。シェフチョビチ委員は、王部長との会談で希土類供給問題に対する深刻な懸念を伝え、民生用途製品に対する規制の緩和や、企業単位での年間輸入許可の発給を求めた。
自動車産業における生産支障が顕在化
中国は今年4月4日より、サマリウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ルテチウム、スカンジウム、イットリウムの7種の希土類と、それに関する合金・酸化物・化合物を輸出統制対象に指定。輸出を希望する企業は、中国国務院の主管部門に許可を申請する必要がある。
さらに最近では、取引量や顧客情報などのオンライン報告を義務づけるトラッキング制度も導入され、統制の枠組みが一層強化された。
これにより、欧州を含む主要国では、自動車産業を中心に深刻な供給不足と生産遅延が現実化している。欧州自動車部品産業会(CLEPA)によれば、中国政府に提出された数百件の輸出許可申請のうち、承認率はわずか25%にとどまり、一部の部品メーカーでは生産ラインが停止したという。
米フォード社は希土類の不足を理由に、先月シカゴ工場で代表的なSUV「エクスプローラー」の生産を1週間停止。ドイツのメルセデス・ベンツやBMWも希土類の在庫確保に総力を挙げている。日本のスズキも小型車「スイフト」の生産を先月末から停止している。
希土類は、自動変速機、パワーステアリング、各種センサー、ライトなど電装部品全般に用いられる素材で、特にEV(電気自動車)モーター内部の永久磁石に欠かせない原料である。ネオジム、ジスプロシウム、イットリウム、サマリウムは、高温回転および高出力が求められるモーター設計において不可欠な素材であり、電動化が進むほどその依存度は高まる構造となっている。

世界の自動車産業を左右する中国の影響力
輸出統制の影響は行政手続きにとどまらず、産業現場に直接波及している。中国が7種の希土類を統制品目に指定したことで、世界的に供給不安が加速。煩雑な申請手続きや限られた審査人員による遅延で、自動車業界が供給網のボトルネックに直面しているとの懸念が強まっている。
特に、世界の希土類精製・加工の約90%を中国が担っている現状では、その影響力は極めて大きい。業界内からは「世界の自動車産業が一部の中国官僚の判断に左右されている」との指摘すら出ている。
7日付ロイター通信は、中国商務省傘下の産業安全・輸出入管理局が先月から希土類磁石の輸出許可権を行使しており、その審査手続きが過度に煩雑かつ遅延しているため、自動車業界のみならず半導体や航空宇宙業界にも影響が広がっていると報じた。
現在、希土類磁石を輸出するには中国政府の個別許可が必要であり、その審査を担当しているのが商務省の産業安全・輸出入管理局である。中国政府は、軍事転用を防ぐ目的で国内基準を強化していると主張しているが、EU商工会議所のアダム・ダネット事務総長は「このような規制が拙速に施行されたことで、多くの産業に混乱を招いている」と批判。「民間用途であることが明白な製品にまで、過度に慎重な対応がなされている」と指摘した。
また、企業が技術情報という知的財産を過剰に開示するよう求められている点も問題視されている。さらに中国政府は、輸出許可の審査期間を原則45営業日以内と定めているが、国家安全に関わる項目については例外扱いとしており、実質的に無期限の遅延が可能との懸念もある。